中学校 理科 3年 【3-1 運動とエネルギー 読み物 (p.71)】

水深と水圧の値

水圧の値を,深さ1mで底面積1平方mの水の柱で考えてみましょう。
この水の柱の体積は1立方mで質量は1000kgです。水100gの重さが約1Nですから,1000kgの水の重さは約1万Nになります。このとき,力がはたらく面積は1平方mですから,水深1mでの水圧は約1万Paです。
水圧は,水深が1m増すごとに約1万Paずつ大きくなります。


大きな水圧

●水深1mで生じる力
水圧は,想像する以上に大きな力を生み出します。たとえば,窓を閉めきった自動車が水深1mの水中に沈んでしまった場合を考えてみましょう。
自動車から脱出するため,ドアを開けようとします。しかし,このとき,人の力でドアを開くことはできません。
話を簡単にするため,ドアの面積がちょうど1平方mで,ドアの中心の深さが1mであるとします。水深1mでの水圧は1万Paです。すると,ドアにかかる力の大きさは1万Nにもなります。これは約1000kg(1トン)の水の重さと同じです。
水圧は,はたらく面積が大きいほど,それによって生じる力が大きくなるのです。


●深度数千mの水圧にいどむ日本の有人潜水調査船「しんかい6500」
深い海底には,私たちがまだ知らない世界があります。その世界を調査するためにつくられた「しんかい6500」は,深度6500mまでもぐることができます。これまで,世界各地の海底の地形や地質,深海にすむ生物などの調査で成果をあげてきました。
水深6500mの海底での水圧は,約6800万Paで,1平方m当たりにはたらく力が約6800万Nにもなります。これは,1平方mに約680万kgの水の重さがかかっていることに相当します。ですから,深い海底の調査には,大きな水圧につぶされない,がんじょうな乗り物が必要です。
「しんかい6500」の人が乗るところは,約6800万Paもの水圧に耐える強さを備えており,その壁は厚さ7.35cmの軽くてじょうぶなチタン合金(金属)でできています。


垂直抗力はどのようにして生じるか

机などの面は,どのようにして垂直抗力を生じさせているのでしょうか。
うすい板を橋のように渡し,その上に物体を置くと(図(a)),板は物体によって下向きに押され,変形します。変形した板は,もとの形にもどろうとして,ばねのような弾性力(変形した物体がもとにもどろうとして生じる力)を生じさせ,物体は上向きの力を受けます。
机の上に物体を置いた場合,厚い板でできた机の面は変形したように見えません。しかし,実際はわずかに変形し,このとき生じた弾性力が,机の面から物体が受ける垂直抗力となります(図(b))。


力の合成と浮力

プールに入ると体が軽く感じられますが,それは人の感覚だけではありません。物体をばねばかりにつるして物体の部分だけを水中に沈めると,ばねばかりの示す値も実際の物体の重さより小さい値を示します。物体が受けている浮力の大きさを,力の合成と力のつり合いを使って考えてみましょう。
図のように,8kgの物体を水に沈めたとき,ばねばかりは70Nを示したとします。これは8kgの物体が下向きに受ける重力の約80Nよりも小さい値です。一方,物体が上向きに受ける力は2つあり,ばねばかりが引く力(70N)と浮力です。浮力の大きさをx Nとすると,上向きの力の合力は,
x N + 70N
です。また,上向きの力と下向きの力がつり合っていることから,
x N +70N= 80N
の式が成り立ちます。つまり,この場合の浮力の大きさxは,
80N−70N=10N
であるとわかります。


橋に見られる力の分解

図の橋は,ワイヤーが橋げたの重さを支えています。重さを支える上向きの力を生じさせるためには,ワイヤーの角度を鉛直方向に近づけた方が,ワイヤーが引く力が小さくてすみます。そのため,図の左のように高い柱を立てるのです。



次の図の古い石づくりの橋は,となり合う台形の石が垂直抗力で押し合って落ちずに安定します。これは,重力の2つの分力が,となりのブロックから受ける垂直抗力とそれぞれつり合っているからです。



質量の異なる物体の自由落下

重い物体と軽い物体を同じ高さから同時に落下させると,どちらが先に地面に着くでしょうか。重い物体の方が大きな重力を受けていることから,速さの増し方は大きくなるように思えるかもしれません。しかし,実際はそうではないのです。
16世紀末,イタリアの科学者ガリレイは,それまで信じられてきた「重い物体ほど速く落ちる」という考えを科学的な実験によってくつがえしました。物体は,質量がちがっても同じように落下したのです。ガリレイはこの実験を斜面を使って行いましたが,後の時代には,イタリアのピサの斜塔のてっぺんから鉄と木の球を落下させた話として語られるようになりました。
自由落下では,重い物体も軽い物体も同じように運動します。これは,質量の大きい物体は,地球から受ける重力が大きいかわりに,静止し続けようとする性質が大きいためです。物体が受ける力の大きさ,質量,速さの変化の関係は,17世紀末にニュートンが運動の法則として明らかにしました。地球上では,すべての物体の自由落下の速さは,1秒たつごとに9.8m毎秒ずつ速くなることがわかっています。
ところで,日常経験から考えると,羽毛は鉄球よりもゆっくり落下します。これは,空気との摩擦のためです。ニュートンらが明らかにした自由落下の法則は,空気との摩擦などがなく(あるいは無視できるほど小さく),物体が受ける力は,重力だけであると仮定した場合になりたちます。空気との摩擦をなくすため,真空に近づけた容器の中で実験すると,羽毛も鉄球も同じように落下することが確かめられます。


慣性を利用して太陽系の外へ

1977年に打ち上げられたアメリカの探査機ボイジャー1号は,初めて木星や土星に接近して詳細な写真を撮影し,惑星や衛星の環境について新たな発見を重ねて任務を終えました。
現在,ボイジャー1号に飛行のための燃料は残ってはいませんが,今この瞬間も太陽系の外に向かって飛び続けています。それは,大気のない宇宙空間では摩擦がないため,慣性によって,運動を続けることができるからです。

てこで力を大きくしたとき仕事はどうなる?

てこを使うと,小さい力で重い物体を動かすことができます。これは,てこの左右では,次の関係がなりたつからです。
たとえば,20kgの物体を直接持ち上げるには200Nの力が必要ですが,てこを図のようにして使うと,4分の1の50Nの力で持ち上げることができます。そのかわりに,力を加えて動かす距離が4倍になり,仕事の大きさは変わりません。


馬力

自動車のエンジンの性能を「馬力」という言葉で表すことがあります。馬力は,仕事率の単位でPSという記号で表し,1PS=735.5Wと決められています。
馬力は,18世紀の中ごろ,イギリスのワット(1736~1819年)が使い始めました。ワットは自分が作った蒸気機関の性能のよさを,馬何頭分の仕事率に当たるかで示しました。
なお,仕事率の単位ワットは,ワットの名前からつけられました。



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