中学校 理科 3年 【3-2 生物どうしのつながり 読み物 (p.127)】

シダ植物・コケ植物のふえ方

シダ植物やコケ植物は,被子植物とは異なり,生殖するときに,しめった場所や雨などの水が必要です。それは,これらの植物が精子をつくり,その精子が水中を泳いで卵細胞にたどりついて受精が起こるからです。
一方,被子植物は,進化の過程で花粉管を伸ばして受精するようになったことで,シダ植物やコケ植物とは異なり,乾燥した地域でもふえることができるようになりました。


シダ植物のふえ方


コケ植物のふえ方

ジャガイモききんと無性生殖

無性生殖をする生物には,1つの個体だけですぐにふえることができるという長所があります。では,無性生殖に短所はないのでしょうか。ここで,歴史上有名な事件を紹介しましょう。
19世紀のアイルランドでは,ジャガイモが主な食物でした。ところが,このころ,ジャガイモがすぐにくさってしまう病気が広まってジャガイモが保存できなくなり,大ききんが起こりました。
この原因は,無性生殖の特徴と関係していました。当時も今と変わらず,ジャガイモは,いもの無性生殖でふやしていました。そのため,もとになったジャガイモの形質は,そのまま子孫のジャガイモに受けつがれていました。ところが,もとになったジャガイモには,ある病気に弱いという形質がありました。ふやしたジャガイモがその形質を受けついだ結果,ジャガイモが同じ形質ばかりになり,病気が広まりやすくなってしまったと考えられています。
無性生殖では,子孫の形質が親と同じになるため,このような短所があります。一方,有性生殖では,子孫の形質がさまざまになり,それらの中には環境の変化に耐える個体がいる可能性があります。
なお,いっぱん的なジャガイモの種類は花をつけても種子はできませんが,本来ジャガイモも有性生殖により種子でふえます。

育種〜遺伝の性質の利用〜

私たちが育てて食べている農作物や家畜の種類は,もともと野生にいた種類(原種)から,人間の手が加わることでつくられてきました。生物の性質を,人間が希望するように改良することを「育種(品種改良)」といいます。
たとえば,さまざまなウシの中で,希望する形質(例:成長がはやい)をもつ個体がいたとします。その個体を選び繁殖させて,さらにその子の中から,希望する形質がよく現れた個体を繁殖させます。これをくり返し,長い時間をかけて,現在の種類がつくられてきました。
近年の遺伝子組換え技術は,より短期間で直接的に育種をすることができる方法です。ただ,この技術では,自然に起こる生殖では考えられない形質をもつ種類をつくることもできます。もし,これらの種類が自然界に放たれると,予想しない影響が生じることも考えられるため,遺伝子組換え技術の利用には注意も必要です。


進化の道すじ〜系統樹〜

最初の生物は約40億年前に誕生した細菌のような生物だったと考えられています。現在生きている推定1000万種類ともいわれる多様な生物のすべては,最初の生物が進化することで現れました。
この進化の道すじを調べようとしてさまざまな研究が行われています。下の図は,現在考えられている進化の道すじ(系統樹という)の例で,それぞれの生物のなかまの「近い遠い」の関係を示しています。


「食べる・食べられる」ではない生物の関係〜共生〜

「食べる・食べられる」は,生物どうしの関係の1つの例で,ほかにもさまざまな関係があります。
たとえば,海水中には褐虫藻という光合成を行う単細胞生物がいて,その一部は,サンゴ礁をつくるサンゴの体内で生活しています。サンゴの体内にいる褐虫藻は,サンゴが排出するアンモニアなどの無機養分を利用していて,一方,サンゴは,褐虫藻が光合成でつくった有機物を利用しています。
近年,環境の変化にともない,サンゴから褐虫藻がいなくなる現象が起こっています。こうなると,サンゴは有機物の供給源を失い,生きることができなくなってしまいます。また,サンゴが減れば褐虫藻も生活する場所を失います。
このように,異なる種類の生物が,密接なつながりをもって生活することを「共生」といいます。
より複雑な共生関係もあります。サクラソウという植物が種子をつくるためには,マルハナバチに花粉を運んでもらう必要があります。
マルハナバチは花の蜜や花粉を食物とし,秋もおそくまで活動し続けます。マルハナバチが生きるためには,いろいろな植物が春から秋へと切れ目なく花をさかせ続けていることが必要です。また,マルハナバチは,ノネズミや小鳥の古巣などを利用して巣を作るので,ノネズミや小鳥などが十分に生活できる環境も必要です。
このように,サクラソウが生存するためには,マルハナバチ,ノネズミや小鳥,さらに,ノネズミや小鳥の食物となる十分な昆虫,さらに昆虫の食物になる植物などが必要です。
サクラソウは園芸用として昔から親しまれています。しかし,自然に生育するサクラソウは現在数が減りつつあり,埼玉県さいたま市にあるサクラソウの自生地は国の特別天然記念物に指定されています。

菌類や細菌類を利用した食品づくり

食物がくさるのは,菌類や細菌類が食物を分解するからです。いっぱん的には,この過程で,悪臭の原因となる物質や私たちにとって毒となる物質が発生します。
一方で,菌類や細菌類の種類や分解の条件によっては,私たちに役に立つ分解も起こります。たとえば,チーズは菌類や細菌類に牛乳を分解させることでつくられます。

分解者を利用した農作物づくり

畑の土には,農作物が成長するときに利用する無機養分がもともとふくまれていますが,農作物を何度も育てていると,だんだんと失われて,農作物が育ちにくくなってしまいます。それを防ぐため,昔から使われてきた肥料が「堆肥」です。
堆肥は,生ごみや落ち葉,動物のふんなどの有機物を集めておくことでつくられます。これらを集めておくと,やがて分解者がふえて,さかんに有機物を無機物にまで分解し,無機物を多くふくむ堆肥をつくります。これを畑の土に入れて混ぜることによって,農作物がふたたびよく育つようになるのです。
このような分解者のはたらきを利用した堆肥づくりを体験できる施設もあります(下の写真)。参加者は,料理に利用できない野菜の切りくずを集め,あらかじめふやされた微生物とまぜます。それを持ち帰り,ときどきかき混ぜながら1カ月ほどすると堆肥ができます。それを畑や家庭菜園などに使用することができるのです。
こうしてつくった農作物は私たちの食物となり,利用できない野菜の切りくずは,次の堆肥の材料にすることができます。



生態系の中で受け渡されていく物質〜生物濃縮〜

生物は,有機物や無機物を環境から取り入れては排出しています。物質によっては,取りこむ量より排出する量が少なく,それらの物質は体内に蓄積されることになります。このような物質は,環境中にごくわずか存在しているだけでも,生物体内に濃縮されます。これを「生物濃縮」といいます。
このような物質は,食物連鎖によって最後の消費者にいくほど高濃度に濃縮され,その濃度が環境の100万倍以上になる場合もあります。
たとえば,海の食物連鎖の最後にいるイルカ,マグロ,カジキのからだには,「メチル水銀」という有害な物質が濃縮されていることが知られています。メチル水銀は,私たちが日常の食事で魚とともに取りこむ程度の量であれば害はありません。しかし,胎児には影響があるため,妊婦は気をつける必要があります。


長い時間で考えたときの物質の移動

有機物の一部は,生物のはたらきにより,循環の途中で地層にとどまります。たとえば,石炭は植物の化石であり,石油のもととなる原油は,海底に積もった生物の死がいからできます。
また,二酸化炭素の一部も循環の途中で地層中にとどまります。サンゴの骨格の炭酸カルシウムは,海水中に溶けている二酸化炭素とカルシウムイオンからつくられます。サンゴの骨格は,長い時間の間に積み重なり,サンゴ礁になります。さらに時間が経つと,サンゴ礁は石灰岩になります。そのため,サンゴは二酸化炭素を岩石にして閉じこめていると考えることができます。

日本近海に豊かな漁場があるわけ

東北地方の三陸沖は世界有数の漁場となっています。その理由の1つが周辺にある海流の存在です。
北から流れる親潮(千島海流)には,アラスカ,ロシアから多数の河川が流れこんでいるため,無機養分が多くふくまれます。この無機養分を利用して,太陽の光エネルギーが増す春には光合成をする生物が大増殖し,それを食べる生物もふえます。
一方,赤道付近から北上する黒潮(日本海流)には,無機養分の濃度は低いものの,南にすむ多種の魚がいます。親潮と黒潮の境界では,黒潮に乗って北上した魚が,親潮でふえたさまざまな生物を食べに集まるため好漁場が形成されるのです。



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